今年はまだ東京では雪は降っていないと思うが、そして今年は暖冬という話も聞くが、外を歩いているとすこぶる寒い。歩きながら「どこが暖冬やねん」と何度も言いそうになった。今が一番寒い時期ではあるが、少なくともあと1か月半くらいはこの状態が続くと思うと、早く暖かくなってほしいなーと思う。暑いか寒いかどちらの方が好きか、と言われたら私は暑い方が好きである。暑いのは暑いでイヤではあるが。
今回も昨年観た映画なのだが、私のお気に入りの俳優の一人であるジェレミー・レナー主演の作品『ウィンド・リバー』という映画である。昨年公開の映画であり、Blu-rayを予約して手に入れた作品である。“ウィンド・リバー”というのは「風の川」という意味でこれは実際にある地名なのだが、アメリカにあるウィンド・リバー先住民居留地のことである。ここは先住民居留地ということで連邦政府の土地ではあるが、驚くことに完全に“無法地帯”なのである。ここウィンド・リバー地区の面積はだいたい鹿児島県くらいの面積で人口は約2万人いるのだが、警察官は6人しかいないのである。この時点で異常なのだが、この地区の平均寿命が49歳、失業率80%、10代の自殺率が全米平均の2倍以上、先住民の女性がレイプされる率が全米平均の2.5倍以上、先住民が殺人事件の被害者になる率は全米平均の5倍という驚く数字が並ぶ。この映画はこのウィンド・リバー地区が舞台の作品である。2012年にニューヨーク・タイムズがこの地区で異常にレイプ事件や女性の行方不明者が多いという記事が出て、それを呼んだ監督のテイラー・シェリダンがこの作品を作ったのである。
野生動物局員である主人公がある日少女の死体を発見するところから物語は進んでいく。少女はレイプや暴行された痕跡があったが、直接的な死因は自然死であった。このウィンド・リバー地区というのはものすごく寒い地域で零下20度から30度にもなるくらい寒い。なので外気を一気に吸い込んでしまうと肺胞が一瞬で凍結してしまい、それで呼吸困難になり死んでしまうのである。この少女はそれが原因で死んでしまったのである。そしてなぜか少女は裸足であった。半径10キロは雪しかないこの場所になぜ少女は倒れていたのか。今回FBIから新人の女性捜査官が派遣されてくるのだが、なんとかこのレイプした犯人を捕まえたいと思ったが、殺人ではないと捜査ができなくなるのし、応援を呼んで殺人ではないというのがバレてしまうのを防ぐため、新人捜査官は主人公の協力を得て二人で捜査をすることになる。これはアメリカのダークサイドを描いた社会派の作品ではあるが、これはジャンル分けをすると西部劇である。そもそも西部劇と言うのはアメリカの開拓時代の話で1880年くらいである。1860年代に南北戦争が終わり、そこから西の方へアメリカではなかった土地に向かって移住していった話である。未開の地へ進んでいくことになるので様々な動物や先住民がいる。当然ながら警察もいない。非常に危険な場所ということで銃を持って武装する。なにかあったり揉めたりしたときには警察がいないのでその銃で決着をつけるしかないのである。これが西部劇の始まりである。ほんの150年前の話で、それが今も全く変わっていないということである。それはこのウィンド・リバー地区の話だけではなく、アメリカは非常に土地が広いため、警察を呼んでも6時間や7時間しないと来ないという場所はいくらでもあり、そこに住んでいたらやはり銃がないと不安になるのである。例えばそこで誰かに殺されてどこかへ埋められたらまず見つかることはないだろう。そんな場所が今のアメリカにもある。田舎の方はほとんどがそうだろう。どうしても銃は必要になるのである。
最初このFBIの新人捜査官はこの地域のことを全く知らず、いろんな“問題”を起こしてしまうが、主人公と行動を共にしているうちに、この過酷な“世界”を知っていくようになる。なぜこの場所に少女が死んでいたのか。なぜ裸足であったのか。この過酷で異常な世界を知った捜査官が最後に“生きる力”、“生きようとする力”を痛切に感じ、言葉にならない感情が涙となってあふれ出す。この過酷で異常な場所で住んでいる人にしかわからない“心”、“思い”というのがある。それをあの静寂とその静寂を打ち砕く一発の銃声が私たちに訴えかけている。これも本当にすばらしい映画であった。
オバマ大統領であった当時、このウィンド・リバー地区の警察の数を6人から36人に増やしたのだが、それでも少なすぎる数である。“自由と平等”と言ってはいるものの、それにはまだまだ遠い話のようである。
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