2024年2月9日金曜日

バカにされていることが歴史を変える

日本語に「一芸に秀でる者は多芸に通ず」という言葉があるが、この言葉を正に体現したような話がある。ゲーム『グランツーリスモ』をやりまくってめちゃくちゃうまくなったので、本物のレーサーになっちゃったという夢しかない話である。これは実話がもとに製作された昨年公開映画『グランツーリスモ』である。主人公ヤンは4人家族で、弟がいるのだが弟はサッカープレーヤーでお父さんからもお気に入りで将来を期待されている。ヤンは大学を中退してバイトをしながらグランツーリスモのゲームをプレイしている。家族からは大学や専門学校に行けと言われてはいるが、ヤンはレーサーになることをただ夢見ていたのだ。そんな中、日産がアカデミーを立ち上げてゲーマーをプロのレーサーにするというとんでもない話が出てきて、その話が通ってしまう。最初は乗る気がなかった鬼教官がいるのだが、鬼教官がその話に乗ることになった。その鬼教官は集まったメンバーは当然全員ゲーマーということで見下し、バカにし、ほとんど相手にもしていなかった。どうせ誰もプロのレーサーになんかなれないと。候補生が次々と落第していく中、ヤンは鬼教官を助手席に乗せて走ったのだが、クラッシュさせてしまい、鬼教官はヤンを落第にさせる。ブレーキを踏めといったら踏むんだよとヤンに怒鳴ったが、ヤンはフェードしたんだという。何がフェードだ、お前が間違っているんだとまるでヤンを相手にしない。しかし、実際にヤンが走行してみせるとフェードだったことが判明。鬼教官はヤンを最終選考レース合格したことを告げる。そしてヤンは最終選考レースに見事優勝し、プロになるべく次のレースに挑む。いくつかある大会の中で1度でいいから4位に入賞すれば日産と契約できるようになる。その中でも4位に入賞し、日産との契約を結ぶ。順風満帆に思われるが、レース中に風にあおられ、車がひっくり返り、コースから大きく外れ観客を巻き込み死亡事故を起こしてしまう。ヤンは大きなショックを受けるが、鬼教官はなぜ自分がレーサーから教官になったのかを教える。ヤンはレーサーをやめることも考えていたが、鬼教官の話で再起を図ることを決意。しかし事故を起こしてしまったということで、シムレーサーは危険だという認識が高まり、レーサーとしての資格をはく奪するようにレーサー間から声が上がっていた。そこで全てにおいての信頼を取り戻すためにはル・マン24時間耐久レースに3位以内に入らなければならなかった。3名での参加になるが、まだアカデミーで修業を積んでいたもう2名の仲間と合流し、ル・マンに挑むのだ。と簡単にあらすじを書いたが、これはもう誰が見ても本当に夢のある話で、一般的に見て、ゲームばかりしていたらゲームなんかやめて勉強しろ、外で遊べ、などなど、なかなかもっとゲームしろという人はほとんどいないだろう。ゲームとは本物でも何でもないし、バーチャル世界の話だし、まさかそれが現実の世界に通用するなんて誰も思っていない。ゲームなんてはっきり言ってみんなバカにしているだろう。でも主人公ヤンのように極めるまでいけばそれが本物のレースに通用してしまうのだ。グランツーリスモのゲームはかなり忠実に再現しているみたいで、車本体であるとか、コースの再現度はめちゃくちゃ高いらしい。つまり、本物のレーサーよりもレースに参加しているし、コースも熟知しているのだ。でもみんなそれを言うと、それはゲームの話だろ!!とまるで相手にしないが、でも当の本人らは大マジメなのだ。そこが観ていておもしろいところなのだ。ヤンがゲームをしているときにお父さんが後ろから「ラインを読めよ」とお父さんなりのアドバイスというか声掛けをして、ヤンは「みんなこうするから俺はこうだな」と自信ありげに言う。それがル・マンのレース中にもそのシーンがフラッシュバックする。ゲーム中は当然だが、ヤンは本物のレース中にも彼の頭の中ではラインが見えているのだ。彼は本物のレースですらゲーム感覚でレースをしているのである。最後の最後まで彼の中ではゲームなのだ。みんなバカにしていることがここまで通用し、シムレーサーではなく、本物のレーサーにまでなったのだ。コンマ1秒の勝負、世界、感覚を彼はゲームで培ってきたのだ。こんな夢のある話があるだろうか。映画みたいな話だなと思うかもしれないが実話なのだ。その人が自信をもってやっていること、めちゃく好きでやっていること、そういう人がいたら優しく見守ることにしよう。もしかしたらその人は歴史を変える偉大な人になるかもしれないのだから。  補足なのだが、この映画の監督はニール・ブロムガンプという人で、私の大好きな『第9地区』でお馴染みの監督である。ここ最近なかなか評価を得ることができず苦しんでいたのだ。かなりオタク要素が強く、『第9地区』を観たときはなんてすごいんだと思ったが、その後の作品を観ると、引き出しの数が少ないように感じたのだ。だが今回、王道といったら王道のエンターテイメント見せてくれ、彼の評価は爆上がりしたのではないだろうか。そういっても私は大好きな監督なので今後も応援していきたい。

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